国際的な仕事に就きたい、もっと会社に貢献できる人材になりたいなど、さまざまな動機で目指したい海外ビジネススクールへの進学。貴重なお金と時間を有益に使いたいものですが、留学にはこんな悩みが付きものですよね。
• どの国・学校が自分にはベスト?
• 新たな分野に挑戦したいが、関連分野の学位なしで進学できるんだろうか?
• 留学費用ってどのくらいかかるの?
• 在学中の暮らしってどんな感じ? 勉強は大変?
• 卒業後に役立つ資格や経験を在学中に積むには?
そこで今回は2009年9月から1年間、イギリスのニューキャッスル大学ビジネススクールで国際人事戦略修士課程を学んだ私の実体験をお伝えします。
そもそもの目的って?
ビジネススクールに行きたくなったのは、新卒で入った日本の会社を辞めてニュージーランドに語学留学中のことでした。
とにかくもっと英語を上達させたいと思いました。でもなんとなく目的意識に欠けたんですよね。英語だけうまくなっても仕方ないよなぁ、と。
じゃあ英語を学ぶ私の目的は一体何なんだろうと考えた時、最初に浮かんだのは海外を生活の基盤にしたいという気持ち。[br num=”1″]
そのためには海外で働かなければならない。もともと日本でやっていた社員教育や人材開発系の仕事は好きだったのですが、人事戦略となると日本はとても守備的なことに嫌気がさしていました。[br num=”1″]
海外の人事系の仕事をするには、日本では最近はやっと知られるようになったタレント・デベロプメント(基幹人材育成)などの先進的な知識と応用に長けていなければならない。10年前の日本でその経験を積むことは不可能に等しかったですから、少なくともビジネススクールでその理論を学ぼうと思ったわけです。[br num=”1″]
最初の難関
滞在中のオークランドにはオークランド大学しかなく、ニュージーランド全土にリサーチを広げても人事系専攻分野の選択肢が限られていました。テレビを買うのに2~3種類しか置いていないような地元の小さな電化製品屋さんに行くようなものです。
そこで視野を広げた瞬間に立ちはだかったのが、多くの人にとっての最初の難関:国えらび。近場のオーストラリアか、ビジネススクール王道のアメリカか、人事先進国イギリスか…。今度はヨドバシカメラ池袋本店でテレビを選ぶようなものです。迷いたければ永遠に迷えるお題でしたが、私は以下の理由でイギリスに決めました。
1.イギリスでは人事部も会社のブレインであり、戦略も先進的。
2.修士課程が1年と短くお財布にもやさしめ(といっても当時のポンド為替レートはまったくかわいくありませんでしたが)。
3.ちょっと苦手なクイーンズ英語を克服できるかもしれない!
家電購入時と同様、やはり自分の中で優先順位をつけるしかないですね。
コストなのか、中身なのか、イメージなのか。私の場合は中身→コスト→付属品でした。
また、前述の通り目的意識がある程度はっきりしていたので、それほど苦労することなく目的地を決められたと思っています
過去より未来
ビジネススクールではマーケティングに挑戦したいけど学士号が思いっきり理系だったり、ファイナンスを学びたいけど大学では文学部フランス語学科でした…という方、心配ご無用です。
私の学士課程は、国際比較法という人事戦略とはまったく異なるものです。イギリスのビジネススクールに出願するには推薦状が二部必要だったのですが、1部は1社目の上司に、もう1部は法学部のゼミの教授にお願いしました。
推薦状といっても下書きは自分でして、推薦者の方から内容への同意とサインをもらうものが一般的です。ゼミで扱った、会社員のセクハラ冤罪の事例に興味を持ったことが今の彼女の人事戦略への情熱の起源でしょう…なんてちょっと無理やりかもしれませんが、法学と人事をリンクさせることだってできたのです。
私はビジネススクール受験にあたり、高田馬場にあるSI-UKというイギリス大学・大学院留学サポートセンターに通い、IELTS試験対策や出願書類の添削を受けていました。そこでアドバイスされたのは、自己推薦文や他者推薦状では今までのこと以上に将来のことが大事だということ。
IELTS試験対策の記事はこちら
自分はなぜその知識を学びたいのか(動機)、学んだ知識をどう使いたいのか(目的)、そしてどれだけの情熱があるか。個人的な意見ですが、やはり前述のしっかりした目的意識があれば、どんな学士が背景でも不可能はないと思います。
SI-UKのサービス概要がYouTubeにアップされています。またSI-UKチャンネルには他の方の留学体験談のビデオもありますよ
運命の出会い
第2の難関はもちろん、イギリスのどのビジネススクールに行くかということでした。日本の大学と違い出願は無料ですので何校でも受けられるのですが、やっぱり本命は決めておきたかったのです。
ロンドンの大学は学費・物価ともに郊外に比べて高く、完全に予算オーバーで切り捨てました。それでもイギリスには180以上の大学があり、この本命の選択に本当に苦労したことが前述のSI-UKに行くことを決めた最大の理由でもあります。
留学サポートセンターの最大の強みはそのネットワークにあると思います。なんせ50校以上を集めた大学フェアを開催してくれるのですから! ネットでいくつか目星はつけたものの決断に至れず、このままでは来年に見送りかとすら思っていた私は、運命の出会いを求めてSI-UK主催のフェアへ。
私はどちらかというとファーストインプレッション派かつ大雑把なので、それぞれの大学から派遣され面談ブースについていた
留学生担当者の感じが悪い=その大学の留学生サポート体制が悪い、
質問に対する回答が的確ではない=現地での学生への対応も的確ではないとして、
候補リスト内の順位を下げました。
また、何校かは人気のある専攻課程で教鞭をとる教授を派遣して学校のPRをしていましたのですが、そこに運命の出会いが待っていたのです。
ニューキャッスルビジネススクールでMBAを中心に教えているというその教授の論理的で分かりやすい話の進め方、質疑応答で醸し出される落着きと自信に満ちた笑顔に見事に引き込まれた私は、彼のプレゼンが終わったときにはニューキャッスルを第一志望にすることを決めていました。
彼は人事戦略というマイナーな課程の話なんてしませんでしたが、この人の教えるビジネススクールで学びたい、そう思ったのです。中学時代、浜崎あゆみが宣伝しているからどうしてもパナソニックのMDプレイヤーが欲しかったのと同じでしょうか。
でもそういう時って驚くほど意志が固く、あとで後悔するかもしれないなんて心配しないものですよね。プレゼン終了後、その教授に駆け寄ってお礼をした際の「今年、ニューキャッスルで会おう」という一言に涙が出そうでした、というのは大袈裟ですが決意を固くしたのは事実です。
なお、ニューキャッスル大学ビジネススクールは、もうスコットランドじゃん!というくらい北部にあるにも関わらず、研究施設や図書館がUK大学のトップ10に入るそうで、リーズやヨークなど郊外でもロンドンに近い大学より50万円くらい高かったです。
この意味ではイメージ(教授)→中身→コストで決めたことになるのでしょうか…。
留学費用の中身
2009年のニューキャッスル大学ビジネススクール一年間の学費は、現在の為替レートで約200万円でした。大学キャンパスから徒歩5分の学生寮は週1万3,000円で、食費・生活費に月5万円は使っていたと思います。
単純計算で1年で330万円近く必要だったことになります。
なお、これは1箱1,500円のタバコ抜きの出費です。海外保険に加入すればその分加算ですね。
私の食生活は、
朝はシリアルと牛乳、
昼はキャンパス内でサンドイッチ、
夜はパスタ、蒸しポテト、冷凍食品なんかを組み合わせて自炊(?)していました。
友人と外食ディナー週1回、パブには月2~3回程度しか行きませんでしたが、キャンパス内のコーヒーとマフィンとか500円くらいするのに、眠気対策だとか脳に糖分が必要だとかの理由で休み時間に毎日買っちゃってましたね。
見落としがち、というよりも行ってから気付いた出費はまず印刷代です。学校にもよると思いますが、ニューキャッスル大学図書館のパソコンから課題を印刷したり参考資料をコピーする場合の紙代は昔も今も有料です。A4紙1枚4ペンス(5円)ですが塵も積もれば山となりました、本当に。卒論印刷前に医学部や薬学部では印刷が無料と知り、友人に頼んで印刷してもらっていました。きっとその分学費も高いんだろうな…。
また、私は幼少時代からサッカーを続けており、せっかくのイングランドですから当然サッカー部に所属したかったのですが、部費・ユニフォーム代・練習場への交通費などが必要となり、残念ながら諦めました。バイトしてお小遣い稼ぎをしている留学生はいましたので、まずは学業のペースがつかめて余裕ができたら私もバイトを考えてサッカー部に入ろう!と思っていましたが、余裕ができることは一切ありませんでした(詳しくは次章で)。
学費に関しては、あぁ高すぎて無理だと諦める前に奨学金制度を調べてみる価値はあると思います。多くの大学が応募条件の異なる複数の奨学金制度をもっていますし、独自の奨学金制度のある留学サポートセンターもあります。
キャンパスライフ
ニューキャッスルに到着してまず驚いたのは、その大学の敷地面積の広さです。
院生用の寮だけでも9棟あり、キャンパスを中心に四方八方に広がっていました。
この大学がニューキャッスル全体の敷地面積の半分を占めているのではないかと思うくらいの規模の大きさでした。パンフレットで見た通りの歴史あるキャンパスを初めて歩いたときは、頑張って入学して良かった!と感慨深い思いでした。
フレッシャーズ・ウィークと呼ばれる最初の2週間で、かかりつけ医の登録・学生証発行・銀行口座開設などの諸手続きを済ませ、講義の予定表を受け取ります。
寮の部屋は6畳弱くらいで、えっ、この空間に月5万円も払えと!?と思いましたが、変な間取りが意外なスペースを作り出して比較的広く感じました。カーテンやベッドシーツのセンスの悪さには驚きましたが、室内の洗面台もキレイでしたし、背の低いクローゼットが2つあって収納もそこそこ便利でした。
どこかの収容所か?と思うくらい大きな寮で12区くらいに分けられており、キッチンとシャワー・トイレは同じ区に住む他の院生6人とシェアしていました。キッチンには一人ずつ食器棚も用意されており、各自の責任で清潔にしていましたが、中国人が友達を呼んで中国茶会を開くと終日貸し切り状態でした。シャワー・トイレは男女分かれていましたが、排水溝に溜まった髪をちゃんと捨てるのは日本人だけなのでしょうか…。
修士課程は秋から始まる2学期制で、講義のない月は1年で4か月。
そのうちの2か月は卒論作成に消化されます。
生徒数100人程度の国際人事戦略課程の約30%はイギリス人、残りの70%は留学生。中国と香港で6割、スイス・マルタ・ポーランドなどのヨーロッパ系4割、インド・ナイジェリア・日本などの少数派が合わせて1割といった感じでした。
日本人とスコットランド人のハーフの男の子はいましたが、私以外に日本人はいませんでした。他のコースと合わせても友達になった日本人は二人だけで、毎日日本人同士でつるんだりせず、自発的に英語環境を作る努力をしました。
講義中、生徒はツッコミたいところで挙手して、「はい、○○さん」なんて言われる前に話し出します。そこから自然と生徒同士の議論がはじまりますので、教授の一方的な話で終わることはまずありません。
また、日本のトヨタ生産方式とか永年雇用の実情とか出てくる度に話を振られましたし、プレゼンの機会もかなり多かったので英語力・度胸ともにかなり鍛えられたと思います。
課題の多くは1,500単語以上のエッセイ形式で、2週間に一度くらいの提出頻度でした。
グループワークでは必要単語数が増えるのに比例して言い争いに近い議論も増えました。また人事課程にも関わらず、アカウンティングやMBAの教授によるビジネス戦略の講義があり途方に暮れることも。年中灰色のニューキャッスルの空を見上げながら、いっそ鬱になってしまおうかと思ったくらいです。バイトなんて到底無理だったし…。
唯一テンションが上がった思い出といえば、そのMBA教授が留学フェアで出会ったあの教授だったこと。
一番厳しい教授でしたが再会できたことには感無量でしたよ~。
課題があるときは放課後は基本的に図書館で過ごし、最低12,000単語の卒論制作中は図書館から何十冊もの参考文献を寮に搬送し、シャワーもろくに浴びずひたすら調べては書いてという作業を繰り返しました。最後はお菓子の山とともにパソコンルームで三日貫徹し、日本への帰国日の午前中に提出。
その間に心優しい友人たちが荷造りしてくれていたので、無事に午後のフライトに乗ることが出来ました。ロンドンから成田のフライトは12時間でしたが、離陸前に眠りに落ち、着陸後に目が覚めたのでせいぜい1時間くらいに感じませんでしたよw。
また私の専攻には地元の企業で2か月間のプロジェクトを行うことが卒業条件であると同時に、CIPDというイギリス人事教育協会の資格を取るための条件でした。チームで企業を訪問・幹部へのインタビューを行い、その企業が抱える人事上の課題を特定しソリューションを提案するというものでした。
もちろん無給だったので、社員へのインタビューや幹部への経過報告のために毎週遠方の工業地帯まで行くタクシー代が痛かったですが、卒業前の就活で一番聞かれたのがこのプロジェクトに関してでした。履歴書の目立ち度も自分の自信も大きく違ってくるので、学んだ理論が実践できる場が在学中に少しでもあるかは選考段階で調べておく価値ありだと思います。
期待していたことではあるのですが、やはり「入るのは難しくても出るのは簡単」と言われる日本の教育システムとは違い、海外のビジネススクールは苦労しなければ卒業できないものなのですね。
しつこいですが、目的意識がちゃんとあったことで学中もモチベーションを保つことができましたし、卒業が近づくに連れて将来が不安になることもありませんでした。修了証を手にしたときは、日本の大学を卒業した時の何倍も嬉しかったです!
ニューキャッスルの洗礼
年中曇り空であること以外、ここまでニューキャッスルという都市の魅力についてお話しませんでしたが、実はとてもユニークな場所です。私が「ニューキャッスルの洗礼」と呼ぶいくつかの出来事をご紹介します。
ニューキャッスルでの2日目、公園で読書をしながら地元の人々の話に耳を傾け(というより盗み聞きして)現地の英語に慣れようと思ったのですが、あれ、全然聞き取れない。
ニューキャッスルにはジョーディと呼ばれる強烈な方言があり、ジョーディ辞書というものがあるほど単語・言い回しやアクセントが違うためイギリス人でも理解に苦労すると言われています。
それを知らなかった私は自分の英語力に絶望するととも、これで講義についていけるだろうかと不安になりましたが、幸いなことに教壇に立つのはニューキャッスル以外のイギリスや他の国出身の教授だったので大丈夫でした。
また、私の住んでいた寮の真横にはニューキャッスル・ユナイテッド(NUFC)のホームスタジアムがあり、試合がある日の地元の盛り上がり様といったら、それはもう尋常ではありませんでした。
まず地鳴りがします。そして超どすの効いた歓声が響き渡ります。その年NUFCは2部リーグでプレーしていたのですが、2部でこれじゃあJリーグは一体?という感じでした。一度だけ観戦に行きましたが、試合前から近隣のパブはNUFCのユニフォームで埋め尽くされていました。
試合後のパブは勝っても負けても興奮冷めやらぬ熱狂的なファンでまたしても超満員。この人達これ毎週やってんだなと思うと、NUFCのファンでなくても愛らしく思えてくるものでした。サッカーに興味がない寮生にとってはうるさくて我慢ならなかったと思いますが。
そして絶対に忘れられないのがニューキャッスルの冬のパーティー服。雪がしんしんと降り積もる真冬でも、ニューキャッスル女子は薄っぺらいパーティードレスでクラブに並びます。もちろんコートなしです。
最初は何か特別なイベントかな、寒そうだなと思って通り過ぎたのですが、毎週同じ光景を見かけるので地元民に聞いたところ、これはもはやニューキャッスルの伝統であるとのこと。私も覚悟を決めて、雪の降るクリスマスイブに友達とその伝統的な装いで出掛けてみました。面白いかったのは最初の1分だけ、あとはもう黙って歩くしかなかったですね。
さらにカウンターに置き忘れた携帯を盗まれたあげく、自分のバッグを預けた友達が男と抜け駆け。バッグの中に寮の鍵が入っていましたが、時すでに遅し。真夜中の雪道をヒールで早歩きし、寮の門に辿り着いたのですが、クリスマスの深夜2時に帰ってくる人なんてそうそういないんですね。自分のベッドで眠りにつけたのは翌日の昼のことでした…。
まとめ
苦しい日々も多くありましたが、後悔することは一度もありませんでした。振り返ってみると本当にいい思い出です。皆さんにも運命の出会いがありますように!
「よくある疑問にお答えします!英国ビジネススクール卒の私の実体験」のまとめ
1.そもそもの目的って?
• 「英語がうまくなりたい」はゴールにあらず
• 目的意識をしっかり
2.最初の難関
• 国の選択に困ったら、コスト・中身・イメージなどに優先順位をつけてみる
• 目的意識が目的地決定にも重要
3.過去より未来
• 関連分野の学位なしでも希望の専攻分野には進学可能
• 過去以上に未来(動機・目的・情熱)にフォーカス
• 目的意識がココでも助けてくれる
4.運命の出会い
• 留学サポートセンターの大学フェアを要チェック
• ココでも優先順位をつけて絞り込み
5.留学費用の中身
• 学費・食費・生活費を含めイギリス北部で1年間で約330万円
• 印刷代や部費など予想外の出費に注意
• バイトと学業の両立はかなり厳しい
• 大学・留学サポートセンターの奨学金制度を要チェック
6.キャンパスライフ
• キッチンとシャワー・トイレが共用の寮では文化の違いあり
• 講義がないのは年に4か月(うち2か月は卒論)
• 自発的に英語環境をつくる
• 議論やプレゼンで英語力・度胸アップ
• 地元の企業での短期プロジェクトは就活に役立つので選考段階で有無チェック
• 目的意識でモチベーションを保てる
• 基本、簡単には卒業できない
7.ニューキャッスルの洗礼
• 強烈な方言はジョーディと呼ばれる
• ニューキャッスル・ユナイテッド本拠地の熱狂的なファン
• 真冬のコートなしでパーティーは伝統
Good luck!
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